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アノスミアと感情
アノスミアという嗅覚異常の病気があることを知った。朝いつもどおり目覚める。と、その世界にはこうばしいバタートーストの匂いも、朝陽を浴びるバラの花の香りも、隣りで眠る異性の甘く汗ばんだ匂い香もない。これだけでもかなりの悲劇なのに、多くの人はこうして嗅覚を失うと同時に、計り知れない量の感情表現を失うという。科学的根拠としては、嗅覚をなくすと、脳の感情を司る部位である海馬と小脳扁桃が刺激されなくなるから。怒り、怖れ、歓び、哀しみ、性的興奮といった原始的な感情から衰えていくという。
逆の観点から言えば、嗅覚に鋭敏な人間は、感情表現にも繊細なアンテナを持つ人間だと言える。様々な香気を察知しつづけることで、日々、彩り豊かに感情脳を鍛えることになるからだ。「香水であれ、食事であれ、ワインであれ、香りを愉しむことは人間性を豊かにする」とある科学者は語る。
またある科学実験によると、異性と親密なパートナーシップを築けない人間の89%は、なんらかの嗅覚異常者であるという。どうやら香りに敏感であるか否かは、異性に対して敏感な気遣いができるか否かの、判断基準にもなるらしい。確かに高くてドぎついブランド香水を水浴びのようにつけている男は、おそらく、恋愛の機微にも下品で大雑把だろうし。無味無臭で香りのエロティシズムにまったく関心を示さぬ男は、どことなく、異性としての危うい魅力に欠ける気がする。単なる匂いの話じゃんと軽視するなかれ。それだけで、人間の"感情品位"のようなものが暴かれてしまうのだから。興味深い。
(October 7, 2008)
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