男子弱体化と男性不妊症

「最近、不妊症治療が増えているのよ」

デンマークで友人の女性が鼻息を荒くする。そのときはなんとなく聞き流した。けれどその後、情報収集するにつけ、いま「男性不妊症」という言葉が北欧でしきりに取り沙汰されている事実を知った。その理由は簡単に言えば、精子の劣化。これは人類が安定志向な一夫一婦制を長くつづけてきた結果、競争相手を押しのけてまで卵子をものに、という闘争の必要がなくなり、いまどきの言葉でいえば、精子さえも草食系になりつつあるのだという。つまりターゲットである卵子になんとしても辿りつく、元気でへこたれない精子君が減ってきているのだ。ものの話によると、ここ50年でデンマーク男性の精子はなんと半減。理由としては「一夫一婦制理論」以外に「環境ホルモン説」も唱えられているが、いまだはっきりした原因はつきとめられていない。

さらに先日NHKのドキュメンタリーで、男性を男性たらしめている、Y染色体がいま人類から消えはじめているという説を知った。ある専門家はY染色体が「数百万年以内に消滅する」と、末恐ろしい推測まで口に。つまり、この世から男がいなくなるわけだが。そのとき人類は、数年前にイギリスのチェスター動物園にてコモドオオトカゲがとつぜん単為生殖をなしとげたように、ある日、処女懐胎できるようになるのか。

さて、ここからは完全に私の仮説というより妄想。最近スウェーデン人やデンマーク人のカップルを何十組も取材して、フィールドワーク的に感じとった知をもとに論を進める。取材を通じて第一に感じたのは、彼らの多くが「異性として惹かれ合っているというより、同性同士の友人のように仲が良い」ということ。現に取材対象者の多くは、中学校時代からの友達、隣近所の幼なじみ、という可愛らしいカップル。お兄ちゃんと妹のような安全感のなかでぬくぬくしている。それはそれでシジュウカラのつがいのようで愛らしく好感が持てるのだけど、同時に、なんとなくその「セックスの匂わなさ」に違和感を覚えたことも確か。異なる性だからこそ、ひとつひとつの理解を肉弾戦で勝ち取っていかねばならない、男女間の魂の摩擦がまったく見えず、そりゃ精子も弱体化するかもと思った次第。

話はさらに飛躍してーー。
異性愛を分析するさいによく引き合いに出される、人間のフェロモンについても言及したい。

フェロモンは、鋤鼻器という五感とは別の感覚器官でレシーヴされると言われるもの。最近、このフェロモンの種類が、人の免疫系システムを支えるタンパク質=「HLA」の型(血液型のように、いろいろ型があるらしい)によって決まるという知識を得た。そして、ざっくりとした言葉でまとめるなら、人間の雌は本能的に強い子孫を残すために、HLA型が異なる雄をフェロモンで嗅ぎ分けて選ぶのだという。つまり自分が持つHLA番号が1・3・5で、彼が持つHLA番号が2・4・6だとしたら。産まれてくる子供は、123456、すべての番号を持つ二倍免疫力の高い子供になる。それを雌は瞬時にフェロモンで嗅ぎ分ける。すごい能力。ただし、ここが重要なポイントなのだけれど、フェロモンを嗅ぎ分けられるかどうかは遺伝的に個人差があるという。そしてフェロモン探知機があまり敏感でなく、結果的にHLA型が似通った男女が子供を作ろうとすると「妊娠しづらい」という一説もある。

となると、兄妹のように似た雰囲気を持つカップルの多い北欧男女は、フェロモンをあまりうまく感知できず、HLA型が似た相手を選んでしまい、それが不妊症につながっているのでは……。なんて乱暴な独自論も展開したくなる。これはもう、あきらかに科学的根拠のない空想妄想セオリー。でも、サバイバル能力に長けた強い子孫を残す必要のない、安穏たる都市部だけで不妊症治療者が増えているのは「なぜか」と考えていくと。あながち、的から大ハズレではないかもとも思えてくる。

(March 20, 2009)



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