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NYストーリー 3
彼女はバーの部外者だった。歳は四十か四十五。赤々と闇夜の摩天楼にたなびく車のバックライト。ドライマティーニにジミー・チューのヒール。そんな都会的表層のさなかにおいて、彼女のまわりだけは、オハイオの煤けたリビングルームが透けて見えた。あきらかに昨晩、埃だらけの屋根裏からひっぱりだしてきた、実年齢にそぐわぬプロムドレスのような衣装。熟しきったフロリダオレンジの色合いが、煌煌と、周囲のモノトーンから浮いている。
突如彼女は、あたかも自分の過去を呑み込むかのように酒を一口あおり、上物のはおりを脱ぐ。そして肩もあらわなドレス姿で、バーの一角にあるソファー席へ。冷静を装いひとり着座する。周囲を見渡せばソファー席一帯は、体と体を密着させたカップルばかり。彼女はそこでもぽつねんと一人孤独に宙に浮く。五分、十分、十五分、ただただ座りつづける。大音量のクラブミュージックも彼女のまわりではコンクリートのように固着する。故ダイアナ妃を意識した、品良くもやや時代遅れなショートカットに指を通すしぐさだけが、不安げに断続的に繰り返される。それ以外、壁の花は微動だにしない。と、あるとき彼女と同年代の、これまたやや時代遅れなサックスブルーのシャツに身を包む男性がふらりと言葉をかけにくる。優雅を装い、彼女はぎこちない笑みを返す。この笑みに彼が応え、彼に彼女が応え、錆びついた車輪のような会話がゆっくりとまわりはじめる。
ニューヨークの酒と夜という非日常感覚を武器に、47丁目のヒップなホテルバーの片隅で、こうして見知らぬ男女がそしらぬ一組のカップルとして結ばれる。もうとうに適齢期を過ぎたから、若者の場に出向くのは恥ずかしいから、恋人を釣りに行くなんてみっともないから。そんな世間の目にびくつく気後れは、彼らかはらほとんど感じられない。女はいくつになっても女を武器にし、男はいくつになっても雄の本能を失わず、互いに真剣にやや緊張の面持ちで、大都会のジャングルのまっただなかで出逢う。彼氏彼女を必死に漁るなんて面倒だよ、とナイーヴに自閉して自分のプライドにめげてしまう最近の若者たちに見せてやりたい逞しさだ。
四十カップルの行く末を最後まで見届けることはできなかったが、たとえ一時の楽しみであったとしても、男と女が男と女として、異性を刺激しあうのは予想以上に人生の彩りを豊かにする。恋愛の達人・宇野千代も語るように「新時代の女性は、その全生涯すべてが適齢期」であるべき。自分で勝手に恋愛放棄年齢をもうけて生きるなんて、人生の色っぽさをみずから捨て去るようなもの。そんなの哀しいしつまらない。
(May 28, 2009)
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