集団失業ヒステリー

アヴィニヨンとパリでぼやぼやして、日本に帰国して一週間。ぼんやり思うことがいろいろ。まずなぜみんなこんな必死に働いているのに、誰もが明日に対する不安を抱えて生きているのか。

たしかに今は不景気だけれど、日本の完全失業率はいまだ5.4%。イタリアの友人の情報によると、イタリアには絶対貧困相といものが15%ほどいて、それを除外してもシチリアなどでは30%ほどが失業者だという。他、ついでにユーロ圏のデータを少し調べてみると、スペインが18.1%、フランスが8.9%、ドイツが7.7%。いずれも日本より失業者率が高い。にも関わらず、日本ほど逼迫した風情はあまり日常生活からは感じられない。なぜか。これは憶測にすぎないが、欧州では、金がないならないなりの幸せというものが存在する気がする。パリには、そういう貧乏集団が群れて茶をするダメカフェが至るところに存在する。彼らは朝な夕なに何をするわけでもなく、そのカフェで何かを話している。

日本にもかつては、貧しくも満たされた生き方というものがあったと年上世代の人々は言う。それが本当がどうかはもう少し調査が必要だが、いずれにしろ今は金をあるていど持って生きていないと「落伍者」の判を押され友人知人さえも失いかねない社会状況にある気がする。つまりいま失業率の上がり下がりに一喜一憂している人々は、金を失うこと以上に、社会生活から暗に「破門」されることを精神的に恐れているように思える。

特に私の目から見ると、親にある程度収入があり、四大を卒業してそれなりの教育を受けた、中流階級の子供たちが必死の形相だ。ある程度の生活水準を与えられて生きてきたからこそ、それを失いたくない恐怖から、表だってはきれいごとを装った、でも隙あらば他者を陥れてやろうというがめつさを身につけている。最近、久々に同年代のエリートサラリーマンの友人に会う機会があり驚いたのだが、彼は全身バーニーズの服に身を包み「勝者」を自己演出しつつ、「いかに時代の先を読むか」「いかに市場をコントロールしていくか」という論をとうとうと笑顔で続けたのちに、そういうことができないやつは死んじゃうよね、とピザの最後の一切れを口に入れながら締めくくった。

別に私は彼に日本の経済状況を語ってくれと頼んだわけではない。にも関わらず、口をついてそうした話題が出てきてしまう。おそらく「不況」というものが自分や同僚たちの「共通敵」になっていて、かつて学校でひとりの子を標的にしてイジメを繰り返しストレスを発散したように、その共通敵を語ることで日々の鬱憤を晴らしているのだと思う。ただ彼がその会話を心から楽しんでいるかというと、そうとはまったく思えない。五年前には見られなかった癖、守銭奴のように懐疑的に目を見開き、まぶたを神経質にしばたたかせる癖が気になった。

確かに生きやすい時代ではないし、確かに未来を読まなければ生き延びていけない。でも、つねに周囲に戦々恐々となり、全方位にマシンガンを撃ち続けていなければ、背後から刺されて死んでしまうかも、という恐怖に追い立てられて生きるのは苦しすぎる。どうだろう。全員で一斉にその恐怖感を脱ぎ捨ててみては。いったん武装解除して全員で休息してみては。いまの日本は集団ヒステリーのように、次なる何かを作らねば、新たな市場を開拓せねば、と躍起になりすぎて、グルグルグルグル、回転車のうえを無目的に走り続けるハムスターのよう。ものすごく疲れる。「生きる」ということの本質は、私は女だからそう思うのかもしれないが、絶対に戦うことにはない。

ちなみに8月は東京郊外にログハウスの一軒家を借りることにしました。友人知人で遊びに来たいかたは、ご連絡ください。

Sorry, forgot to write in English also. I have decided to rent a log cabin in the outskirts of Tokyo in August. Those of you friends who want to come visit and chat, call me.

(August 4, 2009)



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